『スパルタン』    前編


―――♪キーンコーンカーンコーン♪

4時限目の終了を告げる鐘が鳴る。
先生の授業終了の挨拶が終るか終らないかの間に、オレは教室を飛び出ていた。

「おい、佐藤!ちゃんと礼をせんかっっ!」

数学担当の鈴木の怒鳴り声を背に受けなからも、売店へとひた走る。

(あー、今日は焼きそばパン残ってると良いけどなァ〜)

毎日、この時間帯はまさに戦争だった。
ここの高校の売店のパンは異様に購買率が高く、
ぼやぼやしていたら、目当ての物が買えずに、高校生としてはちょっと恥ずかしい
某テレビアニメのキャラの顔のパンを買う羽目に陥ってしまう。
それに、1年の教室は3階で、ついでに言うとオレの教室は一番奥で、
チャイムがなったと同時に出て行かなければ、人気のパンを買うことが出来ない。
それは、入学してわずか2週間の間に、身にしみて覚えた教訓だ。
おっと、オレと同じような考えの奴ら(2・3年の先輩含む)が売店へダッシュをかけている。

(急がなきゃ、もう先に買われてるかもしれない!)

オレは焦ってより一層走るスピードを上げたのだった・・・。

++++++++

「ふふふ〜ん♪」

今日はツイている。目当ての焼きそばパンだけでなく、ジュースも買うことが出来た。
オレは上機嫌で鼻歌交じりに自分の教室へと向かう。

「・・・それにしても。いろんなクラブがあんなぁ・・・」

廊下や階段の壁に、所狭しと手書きの部活勧誘のポスターが張られているのを見てオレはポツリと呟いた。
ポピュラーな野球やサッカーをはじめ、茶道部やパソコン同好会なんてのもある。
4月に入った新入生を少しでも獲得しようと、どこの部活も躍起になっているのが伺える。
そんなカラフルなポスターを眺めながら階段を登っていると、ちょうど踊り場に来たあたりで誰かと肩がぶつかった。

「わっ!?」

驚いた相手は、持っていた紙の束を、バサバサと勢いよく床にぶちまけた。

「あ、スイマセン!」

慌てて謝り、しゃがみ込んでオレも紙を拾うのを手伝う。
拾いながら、何となくその紙を見ると、赤いデカデカとした字で『男バス入部者求ム!!』と書かれてあった。

「あ、ごめんね〜。拾ってくれてありがとう」

ようやく全部拾い終わると、ぶつかった相手は立ち上がってにっこりと笑った。
紙を渡しながら相手の学ランの襟の学年章を見ると・・・『3−B』だった。
・・・げっ、まずい、先輩か。

「いえ、オレもよそ見してたんで・・・。すいません」

慌ててもう一度軽く頭を下げると、相手は気にしないで良い、と言う風に、微笑んだ。
笑うと、そのままでも笑っているような目が一層細くなる。
体の線が細く色白で、ちょっとたよりなさげな雰囲気の先輩だ。
とりあえず、厳しくない先輩で良かった・・・っと、オレは軽く胸を撫でおろした。

「ううん。僕も、これをどこに張ろうか、キョロキョロしてたから、お相子だよ。
 ・・・あ、キミ背が高いねぇ〜。もしかして、バスケとかやってた?」

立ちあがったオレを見上げて、相手がそう問い掛ける。
確かに、187cmある身長を見れば、大体の人がそう思う。
それに、現に中学のときバスケ部に入っていた。
・・・1年で辞めたが。

「まあ・・・少し」

「じゃあ、もし入る部活が決まってないなら、バスケ部はどうかな?
 背の高いメンバー探してたんだ〜。
 あ。もちろん、よく考えた上で入部してもらえたらいいけど・・・。」

どうかな?と首を傾げる先輩。
バスケ自体は嫌いじゃない。と、いうより、むしろ好きな方だ。
・・・だが・・・

「・・・あの。男バスの先輩達って、厳しくないっスか?」

そもそも中学のときに1年でバスケを辞めることとなったのは、めちゃめちゃ厳しい先輩達に、
思いっきりしごかれたせいだった。
今度も同じ目に会いたくないから、事前に確かめるべきだ。
入るかは入らないかは、それから決めても良いだろうし。

「う〜ん・・・。どうだろう?
 僕は、それ程厳しくはないと思うんだけど・・・。
 もし不安なら、部活見学に来れば良いんじゃないかな?今日も部活やってるし。
 実際に、自分の目で確かめた方が良いと思うよ」

(うん、その方が確実だな。)

オレは心の中で頷いて、その先輩の提案を飲むことにした。

「じゃあ、放課後寄らせてもらいます」

「第一体育館の方で練習してるから。待ってるね〜♪
 じゃあ、僕はまだこれ張らなきゃいけないから・・・(涙)
 また後で。」

ポスターの束を片手に抱え、開いた方の手をオレへ軽く振って、先輩は階段を降りていった。

(あの量のポスターを張るのは大変だろうな・・・)

と、ちょっぴり同情しつつ、オレは3階へと再び階段を登り始めた。
オレの頭半分ぐらい背が低かったから恐らく170cmちょっとしかないだろう。
それに、あのひょろっとした感じでは、おそらくバスケ部では、補欠かパシリにされているに違いない・・・。
または、男子マネージャーか?
少し憐憫に思いつつも、『ああはならないようにしよう』と、心の中で誓うオレだった・・・。



To Be Continued...


突発的に(突発的が多すぎ)優也のバスケの時の変貌する姿を書きたくなって、勢いに任せて書いてみました♪
優也自身の一人称だと、あまり変化が良く分からないかな?、と思って、
一般人・佐藤君の協力を得ました(笑)
一応、前後編の2話完結の予定です〜。次号、タイトルの謎が明らかに!(笑)

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